従業員の横領行為があった場合の税務処理について ~消費税編~

さて、前回は「従業員の横領行為があった場合の税務処理」のうち、主に法人税の取り扱い(正確に言うと「実務においては、各々の事実関係や考え方の違いから、事例ごとに違った処理をしなければいけない」という問題点があるということ)について説明しましたが、今回は、消費税の観点から従業員の横領行為があった場合の税務処理について説明していきたいと思います。
前回と同様の事例を基にどのように処理することになるか説明したいと思います。
法人税のように難しい問題はありませんから、リラックスして聞いてください。

⑴ 事実関係等の復習

P社に勤務する甲君がグループ会社S社の平成30年3月期及び進行期の経理指導に行ったところ、パソコン等を販売するS社経理担当の従業員乙氏がパソコン等の販売代金を横領している事実を見つけました。
まず、平成30年3月期中にS社の販売商品であるパソコン等を売上先にS社名義で販売しているので、平成30年3月期の売上げとして計上しなければならなかったことになります。
そして、S社では乙氏に商品販売代金を横領されて損害を受けているので、同じく平成30年3月期において横領損失を計上しなければならなかったことになるというものでした。

さらに、S社の従業員である乙氏による横領という不法行為によってS社は損害を受けた訳ですから、S社はその損害額である販売代金相当額を乙氏に返してもらうよう賠償請求するので、それにより発生する損害賠償請求権を雑収入に計上しなければならなかったというものでした。

ただし、この場合、雑収入の計上時期には様々な考え方があるんでしたね。

また、乙氏が多額の借金をしていてとても返せそうもない状況でしたら、その損害賠償請求権相当額の未収金を貸倒損失として計上しなければならなかったというものでした。

なお、この場合でも、返済できない状況に陥ったのがいつなのかによって、その貸倒損失計上時期が違うというものでした。

⑵ 税務上の仕訳

上記⑴の事実の税務上の仕訳をしてみると、次のようになるでしょう。
①売上債権の回収金員を横領した時
(仕訳) (精算勘定) / (売  上)
⇒(修正申告書の別表4の調理)「売上計上もれ(加算留保)」

②横領等の損害発生時
(仕訳) (横領損失) / (精算勘定)
⇒(修正申告書の別表4の調理)「横領損失認容(減算留保)」

③損害賠償請求権の益金算入時
(仕訳) (未 収 金) / (雑 収 入)
⇒(修正申告書の別表4の調理)「雑収入計上もれ(加算留保)」

④貸倒損失確定時
(仕訳) (貸倒損失) / (未 収 金)
⇒(修正申告書の別表4の調理)「貸倒損失認容(減算留保)」

⑶ 消費税法上の処理

上司: 「それでは、S社の社長に消費税について行った処理を今後どのように直していくよう指導するのかについても事前に説明してもらえますか。」
甲君: 「消費税の処理のことはあまり考えていなかったので、法人税の処理に合わせて処理していくようにとだけ指導しようと思っていましたが、そう言われると少し面喰っちゃいますね。」
上司: 「いや、何もそう固く考えずにざっくばらんに説明してくれればいいんですよ。まぁ、簡単に言うとS社の社長に分かりやすく、順序立てて処理していけばいいんですよね。」
甲君: 「そういえばそうですね、税務上の仕訳がこうなるんですから、この仕訳に沿って説明すればいいんですね。」
上司: 「そう、その通り。」
甲君: 「上記⑵の「①売上債権の回収金員を横領した時」の仕訳の貸方の「売上計上もれ」はパソコン等の売上げですから、消費税法上は課税売上に該当するので、平成30年3月期において、課税標準額を増額する消費税の修正申告書を提出することになります。」
上司: 「そうですね。」
甲君: 「ところが、『②横領等の損害発生時』の仕訳の借方の『横領損失』は対価性のある資産の譲渡等ではないので、消費税法上は不課税取引に該当して、仕入税額控除額に変動はありません。」
上司: 「なるほど、この当たりから法人税法と消費税法の違いが出てくるんですね。」

-2-

甲君: 「そうなんです。
また、『③損害賠償請求権の益金算入時』の仕訳の貸方の『雑収入』も資産の譲渡等に対する対価ではないので、消費税法上は不課税取引に該当して、課税標準額に変動はありません。」
上司: 「はいそれから。」
甲君: 「さらに、「④貸倒損失確定時」の仕訳の借方の「貸倒損失」は課税資産の譲渡に伴う債権について生じた貸倒れではないので、課税標準額に対する消費税から控除できないことになります。」
上司: 「よし、よし。」
甲君: 「したがって、⑵の②③④の仕訳についての消費税の修正は必要ないことになります。」
上司: 「とてもよく分かりました。今のように説明すれば、S社の社長も今後どのように処理していけばいいかよく分かってくれると思います。

でも本当に大事なことは、販路拡大を推し進めるとともに、今後は経理処理等の業務全般を任せっきりにしないで、きちんとチェックすることにより、二度と横領など起きないようにすることなんですね。

だから、そこんところをよ~く指導しておいて下さいね。」

⑷ おまけ

このように、法人税と違い、消費税の取り扱いは割と簡単ですが、従業員の横領があった場合には必ずその横領時(今回の事例の場合は、平成30年3月期)に修正申告書を提出することになります。

売上代金を横領されて持って行かれた上に、消費税相当額を税務署に前払いし、その横領金員と消費税相当額の合計額が帰ってくるかどうか分からないとなると、いわゆる「踏んだり蹴ったり」っていう奴ですよね。

こんなことにならないため、日頃のチェックは怠らないようにしましょう。

担当:田中 俊夫

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