源泉徴収義務 その2 【調査後の源泉所得税の納付等】
質問
昨年、源泉所得税の税務調査で「報酬・料金等」の源泉徴収が漏れていたとの指摘があり、追加納付をしました。
もともと、所得税の源泉徴収は必要が無いと誤解していた支払いでしたので、支払金額を基本に源泉所得税額を計算し納付しました。
そして追加納付した源泉所得税については、本来は、受給者・・・報酬・料金の支払先・・・に請求すべきですが、当該受給者とは、単発の取引であったため、調査により追加納付した源泉所得税額を、本人に請求することを取りやめにしました。
この場合、源泉所得税額相当分を単純に費用計上しても良いですか。取扱いを教えてください。
回答
請求を取りやめた時に、当該報酬・料金の「追加払い」があったとして、「手取り計算(グロスアップ)」により、源泉所得税を計算して納付することとなります。
そして、この納付することとなった源泉所得税額と先の調査により追加納付した源泉所得税額を、先の報酬・料金等の支払科目にて費用計上します。
また、この場合の「支払日」は、「請求をしないこととした時(日)」となります。
注意としては、源泉所得税は支払った翌月10日が納期限となりますので、「請求をしないこととした時(日)」を、稟議書などの何らかの「社内の意思」を明らかにした方が良いと思います。
解説
源泉徴収の対象となるものの支払額が、契約などで支払者が負担することとなっている「税引手取額」で定められていた時は、当該手取額(支払額)を税込みの金額に逆算し、当該逆算した金額を「支払額」として、源泉徴収税額を計算します。
しかし、ご質問のケースのように、先の支払時には、特に契約等で「源泉所得税込み」と定めていない時は、当該支払った額を基準に源泉所得税額を計算し納付することになります。
調査時にも調査担当者からそのように指導され、追加納税されたと思われます。
そして、その源泉所得税額を請求しないとした場合は、「請求しないとした時(日)」に、その税額に相当する金額を税引手取額により支払ったものとして、源泉所得税額を算出し、納付することになります。
納付漏れにご注意ください。
結構、失念されやすい事項です。次回の調査で指摘されるかもしれませんよ。
ここで一言
かつては、調査時に「相手から徴収しない」と申し出があれば、当初の支払時にグロスアップ計算をして納税してもらった経緯がありますが、現在は、その点の取扱いが厳密になりました。
しかしその分、調査後に未収金となっている「源泉所得税」をどのように処理したかを確認することは、調査担当者して確認すべき事項となってい(るはず)ます。
さて、今回のケースは、報酬・料金等に関する質問でしたが、非居住者への「国内源泉の支払い時」には、より注意が必要となります。
そして、非居住者に支払う対価の場合には、特に「支払前」に契約書を確認しましょう!!and 租税条約の軽減等の有無も!!
我が国と相手国との間で租税条約が締結している場合、その租税条約の規定により、源泉所得税の税率が軽減・免除されていることがあります。
租税条約は、国内法に優先され適用されることになります。
この租税条約の軽減や免除を受ける場合には、支払の前日までに、支払者をつうじて「租税条約の届出書」を提出する必要があります。
また、その条約が「特典条項付き租税条約」に該当する場合は、「特典条項の付表」や「居住者証明書」「その他必要とされる資料」の添付が必要となります。
居住者証明書は、相手国の課税当局等から入手する必要があり、その発効までに時間を要することが想定できます。
しかし、契約書に「支払者の国の租税は、支払者が負担する」となっている場合には、対価を支払った後で源泉徴収が必要と判明したとしても、「そちら(支払者)の問題で、こっちは関係ない」として、租税条約の届出書の提出に応じてくれない
ことがあります。(と、相談されたことがあります。)
そのような「契約」の場合は、源泉所得税の計算は当然「グロスアップ」計算になります。
仮にグロスアップ契約であっても「租税に関する手続きが必要な場合は、受給者は協力する」との文言が契約書にあれば・・・いかかでしょうか?
支払い後であっても「協力しないことは契約違反になる。」と強く申し出ることができるかもしれませんよね。そして、届出書の提出に応じてくれる可能性があります。
(あくまでも可能性)
もちろん、支払い前に源泉徴収を要する対価の支払であるか、否かなどを確認し、租税条約の届出書等の要否を確認することが大事となります。
また、・・・・支払い後であっても「租税条約の届出書」等を提出し、還付を受けることもできます。
しかしその際の「還付先」は、報酬等の受給者である「相手国居住者」となるため、還付金を支払者が受け取るには、還付金の受け取りまで「委任」した「委任状」やサイン証明なども必要となり、手続きがとても大変となります。
やはり、支払いの前日までに「租税条約の届出書」等は提出した方が良いと思います。
参考法令等
憲法第98条第2項
所得税法第204条
所得税法第161条、第162条
租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例に等に関する法律(実特法)
他、実特法施行令、実特法施行規則
各国との租税条約
所得税基本通達 181~223共通-4、 同通達221-1
国税庁HP
タックスアンサー No2792「源泉徴収が必要な報酬・料金等とはQ&A」
手取契約の源泉徴収税額の計算方法
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2792_qa.htm
タックスアンサーNo2888「租税条約に関する届出書の提出」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2888.htm
「特典条項に関する付表」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joyaku/annai/5320/01.htm
※ この記事の内容は、昨年9月10日に私のブログに掲載した内容を少し加工したものとなります。よろしければそちらもご確認ください。
(源泉所得税を専門にやってきた国税OBのブログ)
ブログ:http://ameblo.jp/withholdingtax/
なお、記載した回答・内容はあくまでも私見です。実際の課否判定には責任を負いませんのでご注意下さい。参考程度にしてください。
担当:米森 まつ美