不正加担取引が発覚した場合の税務処理について ~不正加担取引が発生した時の問題点 ~ Part.3
Part.3 今回の事例の場合の辻褄が合わない説明と税務上の仕訳と処理について
⑴ 辻褄が合わない説明についての指摘事項
P社の甲君は、S社の乙社長が白状した話を整理してから、その内容を上司に中間報告することにしました。
P社の甲君「 S社の経理指導で判明したことは、今説明した通りでした。そのため、今回は税務上何の処理も必要ないことになります。」
P社の上司「 甲君、熱心に確認して、S社の問題点を洗い出すことができましたね。ただ、もう一度よく考えてみて下さい。嘘の外注費を計上していますが、X社からの売上げも水増しして計上している訳ですから、甲君が指摘するように受注工事自体が赤字になることはないのではないですか。」
P社の甲君「 ん~、そう言えばそうですね。」
『 そう言われてみればその通りだ。不正加担取引の場合、過大売上げと架空(嘘)の外注費の計上が行われており、差額の不正加担金相当額が利益として計上されているので、工事が赤字になる訳がない。』甲君はそう考え直して、
P社の甲君「 S社の乙社長に騙されていたのかなぁ~。ん~、もう一度、S社の乙社長に会って
その点について確認してきます。」
P社の上司「 そうだね甲君、聞きにくいことだけど頑張って全貌を解明することが今後のS社の
ためになるんだよ。」
⑵ 不正加担取引への便乗経理の事実関係の概要
S君は、上司からアドバイスされたことをメモしていき、自分なりに頭を整理してからS社の乙社長に赤字工事の件を確認することにしました。
そして、再びS社に赴いた甲君は、赤字工事の件をS社の乙社長に指摘すると、しばらく下を向いて考え込んでいましたが、意を決したようにP社の甲君の目をまっすぐ見つめて、次のように説明しはじめました。
S社の乙社長「 実は得意先のX社の丙社長から不正加担取引を持ちかけられて悪いことに手を染めてしばらく経ってから、『X社の丙社長がこんなに簡単に税金のかからないお金を作ってるんだから、自分でも自由に使えるお金(専門用語で言うと「不正計算により捻出された簿外資金」)が欲しいなぁ~』と思うようになり、このX社との不正加担取引に便乗して、自分用の簿外資金を捻出するために自分だけで架空外注費を計上するようになってしまいました。」
P社の甲君「 具体的にはどのような経理操作をしたんですか?」
S社の乙社長「 少し利益が上がりそうな受注工事に嘘の経費がかかったことにしたりしました。経理処理の仕方は、X社の丙社長から不正加担取引の時と 同様の経理処理方法にしました。」
P社の甲君「 もう少し具体的に教えてください。」
S社の乙社長「 まず、利益が出ている現場の工事を見つけて、○○土木などと親戚の名前を盛り込んだ個人外注先に『追加工事一式』を発注したことにして自分で嘘の請求書を作成して、現金払いの外注費があったように仕入帳に記帳していました。親戚の名前を使ったのは、万が一見つかりそうになった時でも、親戚なら上手く口裏を合わせてくれると思ったからです。」
P社の甲君「 親戚の名前を使っていたから、下請協力会に加盟していない業者に頻繁に発注しているようになってしまっていたんですね。」
S社の乙社長「 その通りです。不正加担取引に便乗して、自分で自由に使えるお金を作るために追加で嘘の外注費を計上したりしたから赤字工事が出てきてしまったんですね。たった今、甲さんが不審に思った理由が分かりました。見る人が見れば何でもバレてしまうんですね。」
P社の甲君「 それで、そのお金は何のために使っていたんですか。」
S社の乙社長「 私は60歳定年の少し前に親会社から出向というか転籍してきた、いわゆる雇われ社長なので、交際費で使えるお金が制限されており、接待する時に何度か自腹を切ったりすることがありました。出向してきて給料も減り、当然小遣いも減ってしまったので何とかならないかと考えた挙句、X社の丙社長から依頼を受けていた不正加担取引に便乗して、自分用の裏金を作ることを思い付き、先ほど説明したような方法で作った請求書に基づいて嘘の経費を計上したりするような悪いことに手を染めてしまいました。最初は得意先の営業担当をちょっと居酒屋に飲みに連れていくための費用を補てんする程度だったので大したことはなかったのですが、段々エスカレートしていき、銀座のクラブでの接待や個人的な競馬競輪などの趣味にも使うようになっていってしまいました。」
P社の甲君「 どんな心境だったんですか。」
S社の乙社長「 初めは後ろめたい気持ちがありましたが、回を重ねるうちに悪いことをして捻出したお金は会社のために使っているんだからと思うようになり、そのうちだんだん何とも思わなくなって自分のことにも使うようになってしまいました。」
甲君は、S社の乙社長から聴き取った内容を整理し、今後どのようにすべきか自分なりに考えてみました。そして、報告書にまとめた上で、次の通り上司に説明しました。
P社の甲君「 再度確認したところ、報告書のとおりの事実が確認されました。確認不足で済みませんでした。」
P社の上司「 謝ることはないよ。悪いことをしていたのは乙社長なんだからね。」
P社の甲君「 乙社長は泣きながら謝っていましたが、『もうこんな事をしなくて済むので、ホッとしました。本当にありがとうございます。』って感謝されました。」
P社の上司「 甲君、今後のS社の税務上の処理なんだけど、実はS社単独では出来ないんだよ。だから、X社の処理が確定するまで、どのくらいになるか分からないけど、まぁー暫くの間保留しておくしかないな。」
P社の甲君「 えっ、どうゆうことですか?」
P社の上司「 ん~、ちょっと説明しづらいことなんだけど・・・」
実は、上記の不正加担取引や次に説明する便乗経理については、『不正な取引の依頼を受ける(加担せざるを得ない)側』の是正処理と『不正な取引を依頼する(持ち掛ける)側』の是正処理が密接に関係するものなので、単独で処理をすることはできないのです。
何故、単独で処理をすることができないのかについては、Part.5で具体的に説明することにします。
⑶ 不正加担取引への便乗経理の税務上の仕訳と処理について
皆さんは、上記のような不正加担取引への便乗経理があった場合に、どのような経理処理を行って、税務上どのような取り扱いになるか分かるでしょうか?
それでは、さほど難しいものではありませんので、便乗経理の処理を簡単に追加説明していきましょう。
さて次のように、正当な工事売上1,080円に上乗せ分540円を含めた1,620円(1080円+540円=1,620円)が送金されてきたので工事売上げとして計上した。
そして、上乗せ分の工事売上540円と同額の540円全額を預金から引き出して現金払いの外注費として計上するとともに、不正依頼してきた会社に持参し、540円を不正依頼してきた会社の社長にキックバックした。
また、上記取引に便乗して、現金270円を出金して架空(嘘)の外注費270円を計上した時の『帳簿上の仕訳』は、①~③のとおりとなります。
【前提となる収入及び支出】
ア. 正当な工事の売上 :「1,080円」
イ. 水増し分工事売上 : 「 540円」
ウ. 架空(嘘)の外注費 : 「 540円」
内 キックバック分 : 「 540円」
内 不正加担料分 : 「 0円」
エ. 不正加担料収入 : 「 0円」
オ. 便乗経理分の外注費 : 「 270円」
① 上乗せ分を含んだ売上げ代金が振込送金されてきた時の帳簿上の仕訳
(仕訳) (普通預金)1,620円 / (売上)1,620円
② キックバック分全額を外注費として計上した時の帳簿上の仕訳
(仕訳) (外注費) 540円 / (現金) 540円
③ 不正加担取引に便乗して架空(嘘)の外注費を計上した時の帳簿上の仕訳
(仕訳) (外注費) 270円 / (現金) 270円
④ 不正加担したことによる帳簿上のS社の損失
(1,620円-1,080円)-540円-270円=△ 270円
上記のような取引があると、税務上はそれを正当な状態に直すことになります。
なお、上記①及び②はPart.2で説明しているのでその部分を参照してください。
③の『帳簿上の仕訳』をどのように是正するのかというと、便乗経理分の外注費270円として架空(嘘)の経費が計上されていますが、何か役務提供を受けたことの対価ということでもないので、経費等とは認めらないことになるため、同額を減額する(所得金額を増やすということです)ことになります。
つまり、(税務上の仕訳)
(社長貸付金)ⓐ 270円 / (外注費否認) 270円
又は(役員給与)ⓑ
又は(簿外経費)Ⓒ
という税務上の仕訳をする必要がある訳です。
上記仕訳の借方(外注費が経費として認められない場合にどのように処分するかを示すものです。)のうちⓐとⓑの場合、帳簿上のS社の損失270円が税務上は認められないということになり、修正申告をすることになります。
そして、Ⓒの場合のように簿外経費(外注費ではないが、交際費等、支払手数料、交通費及び福利厚生費などの別の経費)として認められることも稀にありますが、ほとんど無理な話でしょう(具体的には、Part.6で紹介します。)。
担当 田中俊夫
つづく