不正加担取引が発覚した場合の税務処理について ~不正加担取引が発生した時の問題点 ~ Part.1

皆さんは、不正加担取引が発覚した場合に税務上どのような処理をしなければならないことになるかご存知でしょうか。
不正加担取引に手を染めるなんてことがないに越したことはないのですが、会社経営を続けているとやむを得ない事情により不正な取引に加担せざるを得ない状況に追い込まれてしまうことがあります。
きっと、税務上の取り扱いが分かれば、割の合わない取引だということが分かって頂けると思いますので、一つ勉強してみて下さい。
さて、不正加担取引の税務上の処理については、大きく分けると①不正な取引を依頼する(持ち掛ける)側と②不正な取引の依頼を受ける(加担せざるを得ない)側の処理があります。
今回は、先に②不正な取引の依頼を受ける(加担せざるを得ない)側の処理について4回に渡って検討していきましょう。
Part.1不正な取引の依頼を受ける(加担せざるを得ない)側の処理について
事実関係の概要
P社に勤務する甲君は、グループ会社の経理を指導していますが、賃貸用アパートの建設業を営むS社に令和元年5月期及び進行期の経理指導に行って、工事収入関係の請求書(控)、工事原価関係の請求書及び工事台帳等を確認していたところ、S社がグループ会社で組織する下請業者協力会に所属していない外注先へ最近頻繁に外注代金の支払をしており、あまり決算内容も良くないことに気が付きました。
そこで、P社の甲君は、S社の乙社長に次のように質問してみました。
P社の甲君「 何故今期はグループ会社で組織する下請協力会に加盟していない業者に頻繁に発注しているのですか。また、工事台帳を基にそれらの工事を精査してみると利益の出ていない工事が多く、中には赤字の工事も見受けられましたが、そのような工事に限って赤字なのは何故なんですか?」
しばらくの間うつむいていましたが、さらにこの辺りの事情について包み隠さず説明するように促したところ、次のような事実が判明しました。
S社の乙社長「 得意先である賃貸アパート経営のサポート会社であるX社からの強引な依頼で、どうしても不正な取引に加担せざるを得なかったんです。」
具体的には、得意先X社の丙社長から次のような話があったというのです。
X社の丙社長「 ちょっと、B工事受注獲得のための工作資金として自由になるお金が必要になったので、これからA工事の追加工事代に少し上乗せして送金するから、送金したらすぐ引き出して大至急上乗せ分というか水増し分を社長応接室にキャッシュで持って来てくれる。」
S社の乙社長「 え、ぇ、ん~、・・・(しばらくの間、黙して語らず)」
S社の乙社長は、X社の丙社長からの強引な依頼に戸惑って、どうしたらいいか迷っていたところ、X社の丙社長から畳み掛けるように
X社の丙社長「 例のB工事は規模がデカイから受注出来たら多めに発注するよ。よろしく頼むな。」
S社の乙社長「 (『そう言えばB工事は儲かるって言っていたような気がするし、借入先のメイン銀行から今期の決算はあまり利益が出ていないようだと言われているし、断ると今後の取引にも支障が出てくるからなぁー』と思いを巡らし、仕方なく同意することにして)引き受けようと思いますが、どんなふうに処理したらいいんですか?」
X社の丙社長「 経理処理のやり方とかは来た時教えるから、頼むな。」
午後一番で取引銀行に赴いたS社の乙社長は、X社から売上代金として振り込まれた金額を全額引き出して、常用の下請け先への振込送金を済ませるとともに、水増し分をスーツの内ポケットに忍ばせて、X社に向かいました。
何かとてつもなく悪いことをしているような気がしたせいか、ATMの振込送金処理を何度も間違えてしまい、後ろに並んでいるATM利用者のため息が胸に刺さる思いだったようです。
S社の乙社長はX社に到着するといつも通り経理課長の前を通って社長室に入り、いきなり
S社の乙社長「 丙社長、レイの金お持ちしました。」
と扉も閉めずに切り出したもので、X社の丙社長は慌てて唇に人差し指を当てて
X社の丙社長「 課長、乙社長がわざわざ来てくれたんで、おいしいコーヒーを入れてくれる。」
経理課長は、単なる仕入先の社長にそんなに高いコーヒー入れてもしょうがないだろうと思い、インスタントコーヒーを入れて持ってきました。
X社経理課長「コーヒーどうぞ」
S社の乙社長「 ど、どうもありがとうございます。」
とは言ったものの余りの緊張で手が震え、とうとうコーヒーに手を付ける余裕もありませんでした。
X社の丙社長「 じゃぁ、大事な話があるからドア閉めといてくれる」
X社経理課長「(なんか胡散臭いこと話し合うんだろうなと思いながら)分かりました」
X社の丙社長「 ダメだよ、あんな大きな声で言っちゃー。あの経理のおばちゃん(先々代の会長で、丙社長の実のお父さんが社長の頃から経理を担当している真面目一方の経理課長)に知られると会長(丙社長の実のお母さん)に筒抜けだからさー、実はこの話内緒にしてるんだよ。」
S社の乙社長「(『やっぱり、これからすご~く悪い事しなきゃいけないんだろうなぁー』と思いながら)すいません、気が付かなくて。」
X社の丙社長「 まぁー、そんなに緊張しないでよ。大したこっちゃないから。じゃぁ、お金くれる。」
S社の乙社長「 あぁー、ハイ。すいません(余りの緊張で)忘れてました。」
X社の丙社長は、S社の乙社長から銀行の封筒に入れられた上乗せ分の現金を受け取り、S社の乙社長の取り分(いわゆる不正加担料のことです)を渡しながら
X社の丙社長「 じゃぁ、これ乙社長の取り分ね。ハッハッハ。それから早速なんだけど、これと同じ内容の請求書に作成し直してもらえる。さっき経理課長に追加工事代を振り込ませる時に請求書と送金額が違うってしつこく指摘されて困っちゃたよ。」
S社の乙社長「 あのぉー、うちの会社の請求書は手書きなんですが、ここじゃぁ、手が震えて上手く書けそうもないんで、会社に戻って清書してきます。」
あんまりにも緊張している様子を見かねて、
X社の丙社長「 まぁー、そんなに思い詰めないでよ。今回だけだからさぁー。他に頼める人いないし、なんかあったら俺が責任取るからさー。このB工事が受注出来たら、うちの会社始まって以来の利益が出るから、そん時は追加工事を一杯発注するよ。それと、乙社長と奥さんをうちの会社で行くハワイへの社員旅行にも連れてってあげるからさぁー。」
売上も増えそうで、X社の丙社長から信頼されてるように思え、それに責任まで取ってくれると言ってもらえて、ちょっと気が楽になってきたS社の乙社長は、
S社の乙社長「 パスポート持ってないし、ハワイなんていいですよ。」
X社の丙社長「 え~と、これからの経理の仕方なんだけど、まずさっき渡した請求書をお手本にして水増しした売上金額の書いてある請求書を作って、月末頃までにうちの会社に郵送で送ってくれる。水増し額はその都度電話で教えるから。 請求書が郵送されてきたら、すぐ振り込むから、今日みたいに即引き出して、現金で俺んとこまで持って来てくれる。乙社長のところの経理処理なんだけどさぁー、水増し分も含めて振り込んだ金額全額を売上帳に記載して、俺んところに持って来てもらう分(いわゆるキックバック分のことです)は、現金払いの外注費として仕入帳に書いとけばいいんだよ。ああー、それからその外注費分の請求書作んの忘れないでよ。何でもいいから、適当な外注先の名前借りて、『追加工事一式』とか何とか書いてあればいいからさぁー。 」
S社の乙社長「 ええー、その都度って、一回だけじゃないんですか。」
X社の丙社長「 まぁー、B工事が受注できるまでの辛抱だよ。現金を俺んとこまで持って来てくれたら、その都度、乙社長の取り分(いわゆる不正加担料のことです)渡すからさぁー。その取り分を帳簿に載せるかどうかは乙社長に任せるよ。まぁー、帳簿に載せないといろんなことに自由に使えるけどね・・・。」
気の小さいS社の乙社長は、とてもじゃないけど恐くてそんな悪いことをして作ったお金を自分のために使う気にならなかったので、会社に戻ってX社の丙社長に渡した分だけ外注費として計上することにしました。
担当 田中俊夫
つづく